foreword 序文

このキーワードのページは、国際規格 ISO/IEC GUIDE50:2014およびその翻訳であるJIS規格 Z8050:2016をお読みになる方々に多少なりとも理解の助けになればと準備したキーワードです。このキーワードは子どもの安全研究グループの理解や考え方を述べたものであり規格の一部ではありません。規格と併せて活用して頂ければ幸いです。内容はお断りなしに変更することがありますことご承知ください。
お問い合わせなどは子どもの安全研究グループにお願いいたします。

Foreword

「ガイド50」の原文ISO/IEC Guide 50 には冒頭にForeword というセクションがある。ここにはこの規格が改訂された背景、意義、内容など重要なことが書いてある。が、これの翻訳版であるJIS Z 8050にはこのセクションが省かれているのでここに要訳・解説する。なお、一般的なISO、IECの規格の作成ルールの部分についてはここでは省略する。
ISO/IEC Guide 50はISOの 消費者政策委員会COPOLCOとIECの安全諮問委員会ACOSの協同で準備された。この第3版は技術的な改訂を行い、第2版(2002年版)をキャンセルしてそれに置き換えたものである。

第2版からの主な変更は次の通り:
 ・タイトルと適用範囲Scope においてISO/IEC Guide 51との緊密な整合を図る
 ・ISO/IEC Guide 50は規格開発者のためのものであるが、他の利害関係者によっても使われることを明確
  に示す
 ・第5章は拡大して子どもの発達、行動と意図しない危害との関係を際立たせる
 ・新しい第7章は旧版に含まれていなかった新しいハザードを含む新しい構成とする
 ・新しく追加の第8章は保護方策Safeguardの適格性を扱う

  ***************************************************************
 なお、JIS Z 8050はForewordのことは載せていないが、規格票の最後に付けられている「解説」には、上記第3版の改訂にあたってCOPOLCO から下記の提言があったことを述べている。
a) 新製品などによる子どもの事故の増加
b) それに伴う子どもの安全に関する基準のグローバルレベルでの高まり
c) 障害者への配慮指針として、ISO/IEC Guide 71(規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針)の
  改正に伴い、障がいのある子どもの安全に対する配慮をどうするべきかという課題への認識

【注】
 要は子どもの周囲で危険な「もの」が増えてきていることへどう対処するべきかという課題である。グローバル化する中で新しく市場に出回る「もの」が増えて来たことや、家庭にシュレッダーや医療機器が持ち込まれるなど子どもの置かれている環境が大きく変わっていることを配慮しなければならないという意図であろう。

傷害 injury (0.2 序文)

 傷害(又は怪我)injury には「意図しない傷害」unintentional injury と「意図された(故意の)傷害」intentional injuryの2種類ある。前者はこの「ガイド50」が対象とする一般的な子どもの傷害であり、子どもがある場合にある「もの」に関わったときに発生するものである。後者は虐め、脅迫、殺人、自殺など「(人の)意図がある傷害」であり、この「ガイド50」の範囲に含まない。(序文 0.2 The reason for this guide 0.3 Relevance of child safety 及び 第1章 適用範囲 1 Scope 参照)

 日本では子どもが死亡又は重傷を負うような事件は「事故」として報道される。しかしながら世界では子どもの安全を扱う場合「事故」accidentという言葉は使わない1)。「事故」accident は「思いがけない」「不幸な」「仕方がない」というニュアンスを含む言葉である。一方「傷害」injury は「予防できる」「制御できる」という意味で、子どもの重大な傷害を減らす努力を含む言葉であり、injuryを使うことになっている。子どもの傷害はほとんどが過去に多数の事例があり、原因もほとんどわかっていることの繰り返しであるため、それを分類し、原因を分析し、予防策を考え、制御することが出来る。ガイド50にはこの「傷害」injuryの事例の分析と、それをどのように予防し、制御するのかということが詳しく述べられている。なお、日本語の「事故」「傷害」という単語のニュアンスでは少し割り切れないところもある。重大な怪我の場合「傷害事故」という表現にすることもある。

「ガイド50」の初版(1987)では accident と injury を区別せず、ほとんど併記しているが、1990年代になって accident と injury の区別をする研究が進んで2)上記のような使い分けとなったと思われる。「ガイド50」の第2版(2002)以降はinjuryだけが使われている。第3版では事故 accidentは僅か4回使用で、例:4.5.2 serious accidents)、明らかに使い分けされている。

 厚労省の人口動態統計の死亡原因では「不慮の事故」として、全て「不慮」(思いがけない)であり、「事故」であるとして扱っている。これは死亡してしまった結果の統計であり、止むを得ないものであろう。なおこの統計では原因に意図があるなしに関わらず、また自然災害による死亡も含めている。

1)  山中龍宏 「子どもの事故による傷害(Injury)– その実態と予防へのアプローチ –」
   (平成21年 消費者安全に関する検討委員会製品ワーキンググループ資料より)
2)  JG Avery “Accident prevention ?injurycontrol–injury prevention?or whatever.
   (Injury prevention 1995 Mar; 1(1):10-11)

安全と探究心のバランス to balance safety with to explore (0.2 序文)

 たとえ転んでしまっても、将来の夢が奪われることのないように…

 「ガイド50」では序文0.2 「ガイド50の意義」のところで「(傷害の防止という課題において)重要な点は、安全性及び子どもが刺激的な環境を探索し学習する必要性とのバランスを取ることである。」と記載されている。また、 5「安全上の考慮事項:子どもの発達、行動及び不慮の危害」の 5.1.1「一般」の項では「安全への配慮は,子どもが自由に刺激的な環境を探索し学習しようとすることとリスクとの間で適切なバランスをとることが望ましい。」と記載されている。

 「事故による子どもの傷害」を予防するためには、子ども用製品はもちろん、子ども用に作られた製品以外のモノやサービスについても、子どもが事故によって亡くなったり、重大な傷害を負ったりすることのないよう、安全なものにする必要がある。

 「安全なもの」とはどのようなものだろうか?それは「許容可能な程度までリスクを低減させた状態のもの」ということであろう。たとえば公園遊具のひとつである「すべり台」で考えてみる。すべり台の登行部両側には手すりが付いているが、子ども、特に幼児はその手すりから不意に手を離して落下することがある。また、すべり台の出発部(踊り場部分)で子ども同士が押し合って落下する、ということもある。そのような場合も、落下面に緩衝材が設置されていれば、子どもの身体、特に脳に与える影響を小さくすることができる。

 しかし、すべり台から転落する事故が起きたらそのすべり台を撤去する、すべり台の高さをきわめて低くする、といった措置は、「安全でもおもしろくない遊び場」を生み出すことになってしまう。彼らの探求心や冒険心が彼らを成長させるということをあらためて理解し、過度に安全な製品や環境を提供することにならないよう注意しなければならない。

 ここに大人の安全とは違う子ども特有の「安全と探究心のバランス」という問題の意味がある。

 参考までに、子どもの遊び場の検討において、子どもが怪我をするリスクと子どもの遊びの意義(ベネフィット)をバランスさせて考える「リスク・ベネフィットアセスメント」という手法が提言されている文献を紹介したい。

 松野敬子「遊具の安全規準におけるリスクとハザードの定義に関する一考察」
  社会安全学研究 第3号 (2013.3)

安全側面 Safety aspects (規格の標題の一部)

 「ガイド50」JIS Z 8050のタイトル(標題)である「安全側面 safety aspects」という語はあまりなじみがない言葉である。これは「ガイド51」の翻訳版 JIS Z 8051 のタイトルと整合する訳語である。
 “aspect” の意味は「顔つき、容貌」「性質」などの他「ものごとの見方」「ものごとを見る側の面」「問題を見る角度」など幅広い意味がある。safety aspectsは「経済面」「環境面 environment aspect」という言い方と同じく「安全からの見方」という意味であり、ガイド50のタイトルは「規格を作る人々が子どもの安全からの見方を規格の中に込めるための指針」という意味である。

 「安全側面」は規格を作る人々が考慮しなければならないことであるが、これについては「ガイド51」JIS
   Z 8051 第7章「規格における安全側面」に詳しい記述がある。概略下記の通り:

   7.1 安全規格の種類
   ・基本安全規格(広範囲の製品・システムに適用可能な一般的な安全側面に関する基本的な概念、原則
    及び要求事項からなる)
   ・グループ安全規格
   ・製品安全規格
   ・安全側面を含んでいる規格

   7.2 提案する新しい規格についての分析
    a)規格の対象者は誰か

    b)規格の種類はどれか(上記7.1)
    c)規格の目的は何か

   7.3 準備作業
   ・規格化の作業は対象となる全ての安全側面を同定することから始める。この段階では全ての関連する
    情報(事故データ、調査報告書など)を集めることが重要である。
   ・規格の基本的内容が決まった後は下記に示す安全側面を考慮することが望ましい。
    (誤使用、製品・システムの能力、環境適合性、人間工学的要因、法的要求事項、既存の関連規格、
     リスク低減方策、メンテナンス、保護手段の耐久性、廃棄処理性、最終使用者の特別なニーズ、
     故障特性、表示、組立方法の指示、安全指示など)

用語及び定義 Terms and definition(第3章)

ケアラー(3.1 carer)

 個々の子どもの安全について、一時的であれ、責任を果たす人、又は子どもの世話をする人

 例)親、祖父母、子どもに対して限定的な責任を与えられた兄弟姉妹、その他の親戚、知り合い、ベビーシッター、教師、保育士、ユースリーダー、スポーツコーチ、キャンプ指導員、保育所就業者

 この用語はガイド50の最も重要なキーワードの一つとして今回の改正で追加された。その意味はこの定義の中に示されているさまざまな人びとの例から判断できるが、それらの事例をすべてカバーする適当な日本語がないため、カタカナ表記で「ケアラー」と訳している。
 子どもの傷害を防止するためには、子どもの特徴や傷害の危険性を知っている大人に見守られていることが重要であるが、ここに例示してあるような人々はそれぞれの局面で一時的であれ子どもの安全に責任を持っているという認識を持たなければならない。
 しかし序文0.3項 (0.3 Relevance of child safety)にある「子どもを見守ることで、常に大きな傷害を防止または最小限にできるわけではない。したがって、しばしば、追加的な傷害防止の戦略(*)が必要になる。」という記述は安全設計において極めて重要な意味を持つ。

 注)(*) 原文ではadditional injury prevention strategyでありこのように訳しているが、第4章に記載されているような設計段階からの周到な戦略について「追加的な」と表現することは適当とは言えず「別の角度から見て積極的な」と解釈したい。「見守り」はsupervisionの訳語であり、ケアラーが監視しながら危険を予測又は察知したらすぐに手を打つ意味がある。ケアラーが子どものそばにいて注意をしていればかなりの程度傷害を防止することはできる。しかしながら常に手をとっているわけではなく、ケアラーの能力にも限界がある。重大な傷害を予防するためには設計段階からのリスクアセスメントを優先することが極めて重要である。遊具からの転落を見守りで防ぐことは難しいが、転落しても重傷にならないよう地面にマットを敷くなどの方策がある。

子ども (3.2 child)

 14歳未満の人

 「ガイド50」の旧版では「14歳まで」と定義されていたが、今回の改正では他の国際規格(特にISO/TC181など、玩具の規格における子どもの定義)に合わせる形で「14歳未満」となった。「子どもの定義は地域の法令などによって異なる年齢制限を採用する規格もある。」と注記1に書いてあるように、日本で子どもの安全に関わる規格を作成する場合は日本の法令などを考慮することになる。
 日本では、中学卒業(15歳)が一つの節目と考えられ、例えば中学生以下の児童労働は禁止されている。一方、18歳未満は選挙権がない(大人として扱われない)など、法令によって子どもと大人の区別の年齢がさまざまに異なっている。

【参考】
機械安全の規格 ISO 13857 (JIS B 9718) “機械類の安全性―危険区域に上肢及び下肢が到達することを防止するための安全距離” SCOPE では産業界で働く「14歳以上」の人を扱うとしている。

製品 (3.5 product)

 製造物、プロセス、構造物、据付け、サービス、構築された環境、又はこれらのいずれかの組合せ
注記:消費財の場合、包装は製品としての製造物の不可欠な一部

 ここではproducts「製品」は幅広い意味で定義されている。子どもはある「もの」に関わって怪我をするが、その対象となる「もの」は子ども用に作られたものに限らない。子どもの特性から考えて極めて広い範囲の「もの」が子どもの怪我の危険源になり得る。
 注)なお、第1章「適用範囲」にあるようにガイド50では、身体的危害を及ぼすものを対象にしているので、心理的・精神的な影響の可能性がある情報機器などは「製品」の対象にはならないと考えられる。また、自然物である川、池、海などもこの定義から見て除外されると考えられる。但し、そこで遊ぶことを組織として企画し団体行動をとるような場合は、その行事については「サービス」であり、その行事を計画・実行・確認するという「プロセス」についても広い意味での「製品」に入ると考えられる。「サービス」及び「プロセス」が具体的にどのように「製品」として定義されるかについて、まだ議論の余地がある。

【注】
 「製品」の定義に当てはまる具体的な例としては次のようなものがある。

製造物:   乳幼児が使用する浮き輪や子供が飲み込む恐れのあるボタン型電池、玩具(原材料や加工方法
       ・手順などによって有害物質が残留していないかなどの製造過程を含む)。
包装:    洗濯用パック型液体洗剤(ジェルボール)とその容器、医薬品の容器・包装。
プロセス:  プロセスとは、「手順」「過程」などの意味があり、一度限りであれ、またはその都度であれ
組み立てたり、混ぜたり、加熱(冷却)したりするなどの製造過程が、顧客に委ねられている
       場合をいう。具体的には、床板を付け替えるベビーベッド、組み立て式遊具、折り畳み式ベビ
       ーカーなど、プロセスの過程や過程の不具合が、傷害の防止にとって重要な項目となる。
据付け:   ベビーベッドの床板を、子どもがつかまり立ちできるようになる前に低い位置に付け替える。
       チャイルドシートを車に取り付ける。折り畳み式のベビーカーを開く。などの行為は「据付
       け」の一種と考えられ、製品の安全規格において考慮すべき対象となる。
サービス:  一時的に子どもを預かる施設は、「保育」というサービスを提供し、学校は「教育」を提供し
       ている。保育園が実施する川遊び(現場の下見、プログラム・役割分担の作成、当日の状況把
       握・指示、異常事態への対応手順などにおける安全の確保などの準備・運営方法を含む)
       など。
構築された環境:不特定多数の人が利用する公園、建築物の出入口や階段など。また乳幼児のいる部屋の構造
       なども、子どもの傷害の要因を作る可能性がある。
組合せ:   子どもの通うスイミングスクールは、プールという構造物と「コーチ」や「送迎」といった
       サービスの組合せ。
最近注目されているベランダからの転落事故の原因(要因)は一様ではなく、ベランダ(マンション)やそこ
にある製品の様々な要素の組合せに留意する必要がある。
さらに、上記のような製品の提供は有償だけではなく無償のものもあり、製造はもとより消費活動より広い概念となり得る。

危害 (3.3 harm)

  人への傷害若しくは健康障害、又は財産及び環境への損害
  (「ガイド51」 の定義3.1と同じ)

 「ガイド50」では、「傷害」injury、「危害」harm、「ハザード」hazardなどの言葉が多数出てくるのでそれらの関係を理解しておく必要がある。
 序文では子どもの怪我を問題にするこの「ガイド50」で扱う主題として「傷害」という語を使って説明しているが、第3章「用語及び定義」では定義として「危害」を挙げ、リスクの定義でも「危害」の確率とひどさという形で表現してもっぱら「危害」に焦点を当てている。「ガイド51」には「傷害」の記述はなくもっぱら「危害」であり、「ガイド50」と「ガイド51」の整合を考えたときには「危害」とせざるを得ないものと考えられる。以後第4章、5章でも「傷害」より「危害」の語の方がより多く使われている。

 「傷害」と「危害」の使い分けは難しいが、「ガイド50」の下記の記述より、子どもが「ハザード」に遭遇して「傷害」という事象が起こり、結果として身体に「危害」が生ずるという関係にあると思われる。

 
 関連事項
(1)(この「ガイド50」の)構成 (0.5 Structure of this Guide)
 “…this Guide focuses on the relationships between child development and harm from unintentional injury, and provides advice on addressing hazards that children might encounter.” とあり、このガイド50は「意図しない傷害」からくる「危害」に焦点を当てており、また子どもが「ハザード」に遭遇する可能性に対処する方法を提供する。

(2)危害の防止及び低減 (4.4 Preventing and reducing harm)
 4.4.1の記述によれば、「危害は、生命維持に不可欠な酸素の欠乏(溺れ、窒息)、身体へのエネルギー(機械的、熱的、電気的、放射線など)の作用、又は体の抵抗力の限界を超える化学的、生物的物質への曝露、のようなハザードの結果として発生する。」

 【注】
 「ガイド50」JIS Z 8050の参考文献にあるWHOの “World report on child injury prevention(2008)” では上記4.4.1の記述にある「危害 ”harm”」の説明とほとんど同じ文章を “injury” の説明に使っている。「ガイド50」の規格作成の段階で、WHOの解釈と整合させることがどのように検討されていたのかわからないが興味深い。

ハザード (3.4 hazard)

 危害(3.3)の潜在的な源
 (「ガイド51」 の定義3.2と同じ)

 “hazard” は「危害の潜在的な源」「危険源」などの意味であるが、「ガイド51」と合わせて「ハザード」と片仮名表記にしてある。消費者にとってわかり難い言葉であるが、「ガイド51」のJIS解説によれば、「この機会に国際規格で言う“ハザード”について,一般消費者も含めて理解しやすい定義の普及に努める必要があるので,“ハザード”をそ のまま用いることとした。」と説明している。危険に関する用語は日本語の場合あいまいなことが多いのでこの際は規格で定義された言葉を「ハザード」としてはっきりと示すことで消費者にも理解してもらいたいという願いがある。子どもの安全に関する規格の世界では国際規格に適合する正確な定義の表現が求められる。
 なお、自動車には「ハザードランプ」、ゴルフでは「ウォーターハザード」などという語が広く使われているが、ハザードの原意は「(偶然にある)危険なもの」であり、「危険源」と訳すことも可能である。自動車の運転中に「渋滞しています」「ありがとうお先に」という意味にハザードランプを点滅させるなどがあるが慣用の言葉としては問題がある。また、公園遊具の安全基準では「ハザード」が国際規格と異なる使われているのには注意を要する。

リスク (3.6 risk)

  危害(3.3)の発生確率及びその危害の度合いの組合せ
 (「ガイド51」の定義3.9と同じ)

 「リスク」という言葉は本来日本語にはなく、広辞苑では「危険」となっているだけでその本当の意味がわからないまま日常よく使われている。「ガイド50」でも初版1987年のころはriskの意味が厳密には定義されていなかった。1990年「ガイド51」が発行されて以降リスクの概念が明確化され、「ガイド50」の第2版2002年には「リスク」の定義が載せられるようになった。

 「ガイド50」第3版にはリスクの定義が明確に示された他、リスクの評価・見積もりの仕方に特別の注意を払うべきことが書いてある。「4.3リスクアセスメント」の項に「危害の度合い、及び特に発生確率は、客観的に求め、また恣意的で直観的な意思決定ではなく、因果関係を実証した関連事実に基づいていることが望ましい。」と書いてある。例えばある危害に関するリスクの評価において、集まった人たちの中で「そんなことはあり得ない、確率ゼロだ」「そこまで考えたら設計が出来ない」と大声で叫ぶ人がいると、反論する人が少なく、以後のリスク評価段階ではその危害について全く検討の対象から脱落してしまう場合がある。それで何かが起こると「それは想定外」とされる。日本では子どもの傷害データベースが乏しいために、危害の度合い(ひどさ)や確率に関する客観的な資料は得にくいが、重大な傷害について考える場合は冷静によく調査する必要がある。この「ガイド50」の記載条項から子どもの傷害リスクのかたちを理解すると共に、入手できる限りの傷害データを調査することが望まれる。
「リスクアセスメント」については別項キーワードで解説する。

安全 (3.7 safety)

 許容不可能なリスク(3.6)がないこと
 (「ガイド51」 の定義3.14と同じ)

 「不可能なリスクがないこと」という2重否定のような表現は正確とは言えない。英文では “freedom from risk which is not tolerable” であり、原意は「許容不可能なリスクから解放されている状態」である。「リスクから解放されていて安心感を持てる状態」と考えることも出来る。

 日本語で「安全」は「安らかで危険がないこと」とある(広辞苑)。しかし実際には危険があるかないか確認できず、この先危険があるかもしれないあいまいな状態であることもある。危険があるかもしれないということはリスクの予測であり、そのリスクについての正しい判断がなければ安易に「安全」ということはできない。誰かが「安全だ」というと安易にそれに続いてしまって災害に遭うというケースがよくある。従って「安全」という言葉を使うことについては慎重でなければならない。

 「ガイド51」に「4 ”安全”及び”安全な”という用語の使用」Use of the terms “safety” and “safe”という項がある。「安全」と言われると全てのハザードから守られている状態と理解されることがある。全てのものにはある程度のリスクがあり、それが許容可能なレベル以下であるかどうかを証明されていない限り「安全」と呼ぶべきではない。例えば「安全ヘルメット」の代わりに「保護ヘルメット」、「安全床材」の代わりに「滑りにくい床材」のように置き換えることが望ましい。

許容可能なリスク (3.8 tolerable risk)

 現在の社会の価値観に基づいて、与えられた状況下で受け入れられるリスク(3.6)のレベル
 (「ガイド51」 の定義3.15と同じ)
 但しJIS Z 8051には下記の注記がある。
 【注記】この規格において、”受容可能なリスク(acceptable risk)”及び”許容可能なリスク(tolerable risk)”は同義語の場合がある。

 JIS Z 8051の解説によれば、「受容可能なリスクacceptable risk」は「許容可能なリスクtolerable risk」より範囲が狭いが、専門的な知識は抜きにして消費者にわかりやすくという意味で「同義語の場合がある」と記載されている。
 受容できるかどうかということは、人がその立場や環境によってどう受け止めるかという問題であり、慎重に考えなければならない。特に子どもの傷害のリスクの場合、親、親戚、教育機関、行政機関、関連業界など関係者が多岐にわたることに留意する必要がある。

リスクとハザード(hazard)

  (作業中)

誤用・誤使用

  (作業中)

子どもの傷害防止戦略(子どもの安全への一般アプローチ)(第4章)

一次予防、二次予防、三次予防 primary, secondary and tertiary prevention

「ガイド50」の4.4 「危害の防止及び低減」preventing and reducing harmには、「危害の発生に至るまでの事象、又は発生後の事象への取組みを行うことで防止又は低減することが出来る。その戦略として次の1つ又は複数を含めるとよい。」としている。

一次予防:ハザードの排除又はハザードへの暴露の排除
二次予防:ハザードへの暴露の確率の低減又は危害の度合いの低減
三次予防:救助又はリハビリなどのアプローチによる、危害の長期的作用の低減

 ここで「一般には安全な製品を設計することが一次予防となる」と記述されている。これは機械安全の基本(「ガイド51」)となっているリスク低減方策としての3ステップメソッドとの関係を連想させるが、異なる概念であることに注意を要する。
 機械安全におけるリスク低減方策は、設計段階におけるリスク低減サイクルを3つのステップをその順序で踏んで行うというものである。「ガイド50」の一次、二次予防に対しては、いずれもステップ1とそれに続いてステップ2で検討することになる。
 それに対し、三次予防は「ガイド51」にはない概念である。予防医学の世界では危害の低減には危害発生後の速やかな回復も含めることとしており、発生前、発生中、発生後の3つの段階それぞれに戦略を練ることを求めている。発生後の三次予防を「予防」と呼ぶのはおかしいとの見方もあるが、子どもの傷害を健康問題ととらえる場合はここにも予め作戦が必要ということである。「ガイド50」は安全関連規格を作成する人のためのガイドであると同時に、子どもの安全を守るすべての人々への情報も提供する資料でもあり、このような記述も含まれるものと理解する。

 予防医学における「一次、二次、三次予防」の考え方については下記の資料がある。
   http://www.ikyo.jp/useful/081112prevention.html

WHOでは、怪我をした子どもはその後の治療、リハビリなどのために病院に入るが、そこで如何に早期に回復できるかということも大きな課題としており、ここでも傷害事故発生後の扱いの重要性について触れている。「ガイド50」の巻末に参考文献(29)として WHO/UNICEF World Report on Child Injury Prevention が記載されている。
   http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241563574_eng.pdf 
     p.12 The preventability of child injury の項参照

能動的戦略、受動的戦略

  (作業中)
 

リスクアセスメント

  (作業中)

安全上の考慮事項:子どもの発達、行動及び不慮の危害(第5章)

子どもの定義

  (作業中)
 

子どもは小さな大人ではない Children are not little adults

 この言葉は「ガイド50」の序文 0.3項第3パラグラフ及び5.1.1冒頭に出てくる。子どもは大人とどのように違うのか、なぜ怪我をしやすいのか、怪我のリスクを排除又は低減するにはどうすればよいのか、この「ガイド50」はそれを明確な形で教えてくれる。

 安全対策については一般に多数の基準類(法的規制、基準、規格等)があり、設計者は通常それらを参照しながら傷害のリスクを低減する方策を立てる。しかしながらそれらの基準類では子どものことはほとんど考慮されていない。重大な子どもの傷害事故が起こると「想定外だった」「親がもっと注意をしていれば」という意見が先ず出てくる。しかしながら「想定外」の行動をとることは子どもにとって当り前のことであり、それを24時間つききりで見守ることで重大な怪我を防ぐことには限界がある。

 子どもの特徴は、第一に身体的なサイズにある。子どもは相対的に頭が大きいことはよく知られているが、その他にも皮膚の表面積が相対的に大きいなども考えなくてはならない。第二に子どもは生まれた瞬間から猛烈な勢いで発達する。寝返る、座る、這う、立ち上がるといった運動機能は誰も知らないうちに獲得して行動形態が急速に変化する。第三に子どもは感覚、生体力学、反応、代謝、など生理学的にも発達するが、それらは運動機能と並行するわけではなく、新たな運動能力の獲得によってとる行動がどのような危険にさらされるかという認識を子どもが持つことは難しい。第四に、これが子どもの最も著しい特徴でありまた大きなリスク要因になり得る、「探索行動」である。子どもは危険を何も知らないで生まれて来るが、ごく初期の段階からあらゆるものに興味を示し、探索行動をとる。危険の認識のないままに手に取る、口に入れる、登る、投げる、さらには限界を試すという行動までとる。これは子どもが危険を認識するための重要な知識獲得手段であり、自然の行動である。大人の世界では当たり前の「気をつけよ」という言葉による注意はほとんど意味をなさない。

 以上のような子どもの特徴を理解すれば、子ども発達段階に応じてとる行動は想定出来るものであり、「もの」を企画・設計する段階からその行動による傷害のリスクを想定し、対策をとることは可能である。

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・「子どもは小さな大人ではない」という言葉は、特に医療の関係ではよく知られている。子どもの発達が身体の器官ごとに全く異なる性質を持つことが文献に示されている。
   http://members3.jcom.home.ne.jp/wadaiin/drusui.html
・WHOでは子どもの傷害事故防止の重要性について詳細な報告書を発行しており、そこでも子どもの特徴についてこのキーワードを使いながら解説している。
   http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241563574_eng.pdf
    p.8 What makes children particularly susceptible to injury.
・子どもの身体、機能、行動などについて総合的に解説したデータ集が発行されている。
  持丸、山中、西田、河内編「子ども計測ハンドブック」朝倉書店 2013年発行

年齢階級別の表現

  (作業中)
 

子どもの発達と行動 (5.1 Child development and behavior)

 子どもは、昨日までできなかったことが今日突然できるようになることがある。また、当然知っているだろうと思うことを意外に知らないということもある。それゆえ、保護者をはじめとする子どもの育ちに関わる人々(ケアラー)は、「まだこんなことはできないだろう」とか、「もうこれくらいのことはわかっているだろう」と過大評価したり過小評価したりしてしまう。それは子どもを取り巻く多くの製品が、健康な一般成人向けにデザインされ、製造されていることに由来する。

たとえば、

・子どもは冒険心が旺盛なので、はしごに登るかもしれない。

・認知能力が十分でないため、そのはしごは自分には高すぎるかもしれない、とか、ぐらぐらして倒れるかもしれない、という判断ができないかもしれない。

・運動機能が十分でないため、桟から手を放してしまったり、はしごから落ちたりするかもしれない。

 子どもが一般成人用の使用を想定した製品を使ってみたり触ってみたりすることは、幼児期に見られる一般的な行動である。それが大人から見て間違った使い方であったとしてもそれを「誤使用」とすることには慎重でなければならない。(「誤使用」については「ガイド50」の0.3及び5.1.1参照)

 上記の内容は「ガイド50」の5「安全上の考慮事項:子どもの発達、行動及び不慮の危害」という章の最初の節 5.1「子どもの発達と行動」に詳しい。それに続く節では、子どもの身体の大きさ、運動能力の発達、生理学的発達、認識力の発達、そして探索行動という順で、子どもの発達とともにどのような危害のリスクに遭遇するか、そしてそれにどのように対処していくべきかという指針が詳しく述べられている。

 

子どもの年齢と発育レベル

  (作業中)

子どもの人体計測データ

  (作業中)

運動能力の発達

  (作業中)

生理学的発達

  (作業中)

認識力の発達

  (作業中)

冒険したいという生来の願望 (a natural desire to explore)

 このいかにも子ども(幼児)らしい様子をうかがえる言葉は、「ガイド50」の旧版ISO/IEC Guide 50:2002の翻訳版に現れるが、JIS Z 8050:2016では下記のようになっている。

0.3 子供の安全との関連性
 多くの国々で,幼児期から思春期にかけて子どもの傷害が死亡及び障がいの主要原因となっており、子どもの安全は、社会が重視すべき問題である。(中略)子どもは,リスクを経験したり認識したりすることなく、生来の探究心を抱いて大人の世界に生まれてくる。(中略)その結果、傷害を負う潜在的可能性は、特に幼児期から思春期にかけて大きくなる。子どもを見守ることで常に大きな傷害を防止又は最小限にできるわけではない。従ってしばしば追加的な傷害防止の戦略が必要になる。

(改訂前のISO/IEC Guide 50:2012の翻訳版では、上記太字の部分は「冒険したいという生来の願望」となっている。英文では改訂前後のどちらも同じ表現“with a natural desire to explore” であるが、旧規格の翻訳の方がニュアンスとしては合っていると考える。

「ガイド50」JIS Z 8050:2016でexploreは上記の他、次に示すように多数使用されている。
5.1.1 子供は探索行動の結果として,はしごに登るかもしれない。
5.1.1 リスク及び刺激的な環境を探索し学習する。
5.1.6 生まれつきの探究心によって突き動かされる。”driven by an inborn drive to explore”
5.1.6 探索行動の中で最も頻繁に観察されることの一つ・・・口に含むという探索行為は、単に食べるということではない。
7.9.2 ・・・子どもは、特に台所、食堂、浴室近辺などで熱傷のリスクにさらされる。それは彼らの探索傾向が強いためである。

これらの5箇所の例からみると、冒険したいという生来の願望という翻訳は「生来の探索心」」と言う表現よりも意味が深い。「冒険」と「探検」の違いは下記とした。

【冒険】とは、「危険が待ち受けていると想像できることを、あえて行う。そのような場所にあえて出かけること」。
【探検】とは、未知の場所に足を踏み入れ、その場所にある(と思われる)何かを探したり、調べたりすること。

私見では、「冒険したいという生来の願望」と訳した翻訳者の言葉のセンスに素晴らしいものを感じるが、規格としての厳密性、特に冒険にはリスクを意識していることが含まれるので問題かもしれない。しかしリスクを知らずに生まれてきた子どもがexploreに強い関心を示しているということが重要と考える。

子どもの安全環境(第6章)

物理的環境

  (作業中)

社会的環境

  (作業中)

睡眠環境

  (作業中)

子どもに関連するハザード(hazard) (第7章)

機械的ハザード

  (作業中)

はまり込み及び巻き込み

  (作業中)

コーナー、エッジ、及び先端部

  (作業中)

不安定性

  (作業中)

浮上体

  (作業中)

構造的不完全性(不適正なメンテナンスを含む)

  (作業中)

可動及び回転体

  (荒木)

落下(危険な高さ)

  (瀬戸)

溺水のハザード (7.4 drowning hazard)

おぼれる【溺れる】は、水中で泳げないで沈む、水中に落ちこんで死ぬ、または、死にそうになることをいう

0歳から4歳児の溺死
 2013年の1年間に水に溺れてなくなった乳幼児は、0歳児(4人)、1歳児(14人)でありその多くは家庭内の浴槽である。不慮の事故で亡くなった同年齢の乳幼児129人の14%である。溺水で医療機関に搬送され一命は取り留めたがその後に影響が残った乳幼児は含まれていないので実際はもっと大きい数字と思われる。Guide50 条項7.4「溺れる危険源」は欧米の事例が多く参照されている。国内の子どもの溺死は、乳幼児では浴槽、学齢期ではプールや河川、湖、海に警戒しなければならない。

 また、高齢者の溺死者が他の年齢層から突出していますが、そのほとんどが浴槽で発生しています。乳幼児と高齢者の溺死の多くが浴槽で発生していることは日本のお風呂の習慣と関係しているといえる。

窒息

  (作業中)

通気性のないエンクロージャ

  (作業中)

首の締め付け

  (作業中)

小さな物体

  (作業中)

吸引

  (作業中)

火災、及び裸火

  (作業中)

温度のハザード(高音・低温表面、高音・低温流体)

  (作業中)

軟化又は溶融物体

  (作業中)

高体温・低体温

  (作業中)

化学的的ハザード

  (作業中)

感電

  (作業中)

電離放射線、電磁波

  (作業中)

紫外線

  (作業中)

高輝度光又は収束光

  (作業中)

電磁放射線

  (作業中)

騒音

  (作業中)

生物によるハザード

  (作業中)

爆発及び火炎

  (作業中)

保護方策の適格性(第8章)

製品による保護方策

  (作業中)

据付けによる保護方策

  (作業中)

人に適用される保護方策

  (作業中)

行動による保護方策

  (作業中)

説明書による保護方策

  (作業中)

索引

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キーワード
章番号 キーワード 英語 注記
0.2 序文 傷害 injury  
0.2 序文 安全と探究心のバランス to balance safety with to explore  
標題 安全側面 Safety aspects  
3.1 ケアラー career
3.2 子ども child