「学校施設の安全点検」~安全工学シンポジウム2022より

  1. 学校施設の安全点検は、老朽化の点検と老朽化以外の点検に大別される
  2. 老朽化の点検(期限切れ点検)には、
    1. 経年劣化(ひび、摩耗、脆くなるなど)
    2. 破損・故障(実際に壊れる・故障する)
    3. 整備不良(ねじ・ナットの緩み、注油不足など)
      などがある
  3. 老朽化以外の点検(時代遅れ点検)には、
    1. 安全基準不適合(そもそも安全でない)
    2. 運用変更(立入禁止から立入容認へなど)
    3. 新施設導入・更新(例えばバリアフリー対応で児童生徒の行動様式の変化)
    4. 外部環境変化(学習内容の変化、児童生徒の変化など)
      などがある

      安全点検の分類と特徴
      安全の点検の分類

      期限切れ点検
      (老朽化)

      時代遅れ点検
      (老朽化以外)
      いつ 定期点検が有効 不定期
      一度だけでも
      点検項目 補修 改修・改善
      点検表 有効 対応困難

      詳細については、安全工学シンポジウム2022講演予稿集を参照
      子どもの安全研究グループ「学校施設の安全点検に関する一考察」

かかりつけエンジニア(学校での傷害予防を目指して)

1. 全国の多くの学校でかかりつけエンジニアを配備するためには、多くの人材が必要となる
2. 安全に関する技術的知見のあるエンジニア(例えば工場や建設現場で安全管理の経験者)は地域にいる
3. 地域のエンジニアが、子どもの特性や学校教育の仕組みを中心とする知識を習得して、初めてかかりつけエンジニアとして活躍できる養成のための仕組みが必要
「かかりつけ」の意味は
①安全だけでなく、子どもや学校についての知見がある
②地域にいて、継続的に学校の安全にかかわり続ける
そのためには、それぞれの地域においてかかりつけエンジニアを養成していくことが望まれる

遊具の安全規格 EN1176

 EN1176は、子どもの遊び場における遊具の安全のための欧州規格(EN)です。EU加盟のヨーロッパ各国はもちろん、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどで採用されています。
 安全基準は子ども達を守るためのものであるが、厳しすぎると子どもから「面白くない」とそっぽを向かれる事になりかねない。遊びは子どもの発達に欠かせないもの、価値があるものである。

 国内の遊具の基準は、「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂版)」(国土交通省 2014)があり、遊具メーカーの業界団体の日本公園施設業協会(以下、「JPFA」という。)が「遊具の安全に関する基準」JPFA-SP-S:2014(以下、「JPFA2014」という。

世界の多くの国が採用しているEN1176-1:2017を紹介することで、国内の子ども達が少しでも健やかに育ってくれることを祈りながらこれからEN1176に触れて行きます。

「かかりつけエンジニア」とは?

  1. 学校には学校医(かかりつけ医)がおり、かかりつけの理学療法士がいる場合もある
  2. 施設・設備の安全点検について、定期点検のほか重大事故発生時の一斉点検など、現場での点検は欠かせないが、技術面で教職員の手に余るものも多い
  3. 安全点検の手法についても、労働安全分野等で広く実施されているリスクアセスメントの導入が望まれるが、対応できる人材がいない
  4. これに対し、地域にいるエンジニア(専門家)を活用して、現場の技術的課題に対するアドバイスやリスクアセスメントを行う、かかりつけエンジニアという方法を提案している

課題
1. エンジニアが安全の専門家で工学的な安全についての知見があっても、子どもの特性についての十分な知識がなく、ましてや学校教育の専門家ではない場合が多い
2. このため、教職員・保護者や地域の皆さん、技術以外の専門家など多くの関係者とともに学校の安全を支えていくことが望まれる

かかりつけエンジニアは、何カ所かで試行しており、関係各所と一緒に具体化に向けて調整中です。調整が進みましたら本WEBサイトにてお知らせします。暫くお待ち下さい。2023-08-19

大人用ベッドに乳幼児を寝かせないで

大人用のベッドに子どもを寝かせるときの危険性についてEUの
Child Product Safety Guide (注1)
 のAdult Beds、pp.12-13
にありますので紹介します。
なお、消費者庁 News Release 平成28年10月24日 p.3にその一部が翻訳されて公開されています。本ページはEUのGuideのp.12-13の翻訳です。

大人用ベッド
 2012年、生後6カ月の女児が、両親のベッドのマットレスとベッドの間に頭を挟み込まれ(entrapment)、死亡が確認された。両親のベッドで寝かされていた女児は、どのようにマットレスとベッドの間に頭が挟まったのかは不明である。両親は 娘は意識を失っていることに気付き、ベッドから降ろした。女児は病院に運ばれたが、3日間の治療の後、死亡が確認された。
出典 国立子ども安全衛生センター。BETEREM。イスラエル National Pediatric Injury and Safety Surveillance (NAPIS). 2013.

なぜ大人用ベッドが問題になるのか?
•  EU Injury Database(IDB)のデータを用いた推計によると、EU加盟28国では、0~14歳の小児に年間約10,000件の傷害が発生している。加盟国では年間約10,000件の0~14歳の子どもの傷害が大人用ベッド 救急外来を受診しなければならないほど深刻である。
•  米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、大人用ベッドに関連した2歳未満の子どもの死亡事例を3年間で100件以上報告しており、そのほとんどが窒息死であった。これらの死亡事故には、はさみこまれ(捕捉、an entrapment)、転落(a fall)、または寝具や子どもの位置が死亡に関係する状況が含まれていた。これらの子どものほぼ全員、98%が1歳未満の乳児であった(3)。

どうして大人用ベッドが子どもにとって危険なのか?
多くの親やケアラーは、赤ちゃんを大人用ベッドに寝かせる際に隠れた危険があることに気づいていない。親・ケアラーは、大人用のベッドを壁に押し付けたり、ベッドの側面に枕を置いたりすれば、小さな赤ちゃんは安全に眠れると考えがちである。しかし、調査によると、大人用ベッドに寝かせた赤ちゃんには、以下のような隠れた危険があることがわかっている:
• ベッドと壁のあいだのすき間、またはベッドと他の物との間のすき間に挟まれる(捕捉)。
• ベッドフレーム、ヘッドボード、フットボードに挟まれる(捕捉)。
• 大人用ベッドから積み重ねられた衣類の山、ビニール袋、その他の柔らかいものの上に落下し、窒息する。
• ベッドで一緒に寝ている人の体、またはベッドにある毛布や枕により、頭、胸、または腹部が押しつぶされる、はさまれ・巻き込まれる(捕捉)こと。
• 大人用ベッドから床への転落。
• 柔らかい寝具(枕や厚い掛け布団や敷き布団など)やウォーターベッドでの窒息。ウォーターベッド。子どもは沈み込み、腹ばいになると頭を上げることができない。頭を上げることができない。ウォーターマットレスは顔全体を覆うので、窒息の危険がある。窒息の危険がある。

購入時や使用前の注意点
• ベッドが欧州規格EN 1725:1998(家庭用家具)-家具-ベッドとマットレス-に適合していることを確認してください。この規格は、ベッドとマットレスに関する機械的安全要件と試験を規定しています。この規格は、あらゆる種類の完全に組み立てられた家庭用大人用ベッドに対する機械的安全要件と試験を定義しています。すべての構成要素(ベッドフレーム、ベース、マットレスなど)。
• ベッドにしっかりとフィットするマットレスがあることを確認してください。
• ヘッドボードとフットボードが一体化したベッドを購入すること、隙間や空間があるものよりではなく。
• マットレスが2つに分かれているベッドではなく、マットレスが1つのベッドを購入する。

大人用ベッドの安全な使い方
– 2歳未満の子どもを大人のベッドに一人で決して寝かせないでください、そしてうつぶせではなく、必ず仰向けで寝かせてください。
– 大人が子どもと一緒に大人用ベッドに入る場合は、柔らかい毛布や枕を必ず取り除いてください。毛布や枕は窒息の原因になることがあります。マットレスは 硬さのあるものであること。
– 子どもがベッドから落ちた場合に備えて、ベッドの両側にカーペットやマットレスを敷く。

おすすめ
 赤ちゃんにとって最も安全な睡眠の場所は、親やケアラーと同じ部屋にある適切なベビーベッド(注2)です。

筆者追記

 国内では、大人用ベッドに子どもを寝かせるときの危険性はほとんど知られていません。消費者庁はNews Releaseを発行して周知に努めていますが、なかなか広まりません。
 親やケアラーは、大人用ベッドに子どもを寝かせるときの危険性(リスク)として、ベッドからの転落を警戒し、ベッドを壁側に寄せる、あるいは転落防止の柵(ベッドガードなどと呼ばれる:注3)を設置するなどの工夫をし、さらにベッドとの間のすき間をタオルなどで塞ぐなどの工夫をしています。残念ながら、こうした工夫はリスクは大きくすることにつながり、安全性の向上には役立たないのです。追って報告します。すこしお待ち下さい。

(注1)平成28年当時はEUのサイトからダウンロード出来ましたが現在はURLは不詳です。オリジナルのサイトではありませんが、ダウンロード出来るサイトがあります(2023-07-19現在)。
https://www.certifico.com/component/attachments/download/2701
https://www.readkong.com/page/child-product-safety-guide-potentially-dangerous-products-7069497

(注2)ベビーベッドは、安全性の確保が特に重要な製品です。国のPSCマークの対象となる「特定製品」の中でも、ベビーベッドは「特別特定製品」というさらに厳しい基準が設けられています。

(注3)幼児用ベッドガードの使用はお勧め出来ません。使用時の事故が多いため、消費者庁から繰り返し注意喚起がされています。ある乳幼児向け製品のメーカーは既に販売を中止しています。幼児用ベッドガードの安全性の確保が必要なことはベビーベッドと同様と考えますが、幼児用ベッドガードは国のPSCマークの対象となる「特定製品」に含まれていないことにご注意下さい。SGマーク付きの幼児用ベッドガードも販売されていますが、認証基準に筆者は疑問を持っています。別ページで報告する予定です。

(注4)子どもがベッドガードに挟み込まれている動画がネットにあります。子どもは苦しかっただろうなと思うと筆者も苦しいです。
https://www.instagram.com/reel/CtgKAOrvkH3/?igshid=MzRlODBiNWFlZA%3D%3D

乳幼児の製品事故未然防止を目的とする試験方法 JIS規格 JIS S 0121:2021

 すき間や開口部は、乳幼児の体全体またはその一部がはまり込みや巻き込みのリスクがある。硬質な製品だけではなく、ループ状のロープ、ひも、コードあるいは網(ネット)でも発生する事がある。

 すき間や開口部を評価するときに使用できる、指差し込みブローブ、胴(体幹)、頭の試験用の治具のJIS規格が2021-03-22に制定された。試験対象となる製品は、生後 0 か月から 84 か月(7 歳)未満の乳幼児(以下、「乳幼児」という。)が接する消費生活製品全般(乳幼児用製品を含む)である。

 このJIS規格には、成長過程において身体寸法が大きく変更する部分につい
ては、試験プローブの設計寸法に年齢(月齢表記)区分が設定されており、乳幼児の年齢(月齢)に応じた試験プローブの形状および寸法が含まれていることには注目される(ここまで細かいデータはこれまで無かった)。

 このJIS規格は
・CEN_TR 13387-3 Child use and care articles – General safety guidelines part3:Mechanical hazards
・EN 1176-1:2017 付属書D 捕捉の危険源のための試験方法
・ASTM F 404  Standard Consumer Safety Specification for High Chairs 
を元に作成されている。

なお、JPFA((一社)日本公園施設業協会)が提唱するJPFA点検器具AおよびBとは違いがある。

本規格はnite(製品評価技術基盤機構)から提案されたもので、提案の背景や関連情報がniteのWEBサイトにあるのでご覧頂きたい。
    乳幼児に対する安全配慮を目的とした製品の共通規格の提案
また分かり易い解説が建材試験情報 2021 5・6 Vol.57 pp. 18 ~20にある。

以上

 

 

保育園園庭遊具のロープが園児の首に巻きつき重体、2023-05-02

2023-05-02、午前10時半ごろ、埼玉県久喜市の「なずなの森保育園」で、園庭の土の山の上部から下部にあった遊具のロープが、3歳男児の首に巻きつき、意識不明の状態で救急搬送された。

ロープは16mm径のナイロン製(黄色と黒色の縞模様、トラロープ)で、小山の上のウッドデッキの杭から垂らしてあり、常設ではなく当日は園児が遊ぶまえに設置していた。

事故当時、園庭には34人の園児がいて、ロープがあった小山の近くでは3歳の男の子が数人と遊んでいたとみられ、園庭にいた6人の保育士はいずれもそのようすを見ていなかったということである。

保育園のロープ遊具が園児の首に巻きつく

この園児は、5月24日までに意識を回復した。

(上記は、各社の報道内容から筆者が編集したものであります。)

考察:

 垂れ下がっているロープに子どもの首が巻きつくことは、致命的な事故になることがある。家庭のブラインドの開閉コード、カーテンのロープなどによる事故はよく知られている。
 遊具のロープは、両端を固定し、ロープが輪/環になって子どもの頭部、手、足などに巻きつかない、あるいは締まらないように設置しておけば本件のような事故は生じないのである。

 

トランポリンパーク等での事故、消費者庁公表、2023-04-20

 トランポリンは、利用者がトランポリンの真ん中の部分(ベッドのこと)で跳躍することで、利用者が持つ「運動エネルギー」を、「弾性エネルギー」に変換して、跳躍できる設備です。
 着地した際には、自身の発生させた運動量に応じた自身に掛かる重力の数倍にも及ぶ反発力が、ベッドに接触した身体の部位を起点に瞬時に加わることが考えられます。一人で利用したときのほか、複数人利用の場合は、他の利用者の影響で利用者にかかる反発力が大幅に増幅し、思わぬ傷害をおうことがあります。

 消費者庁は、全国のトランポリンの施設で骨折などの大けがが相次いでいることから、消費者庁の安全調査委員会は、国に対して、施設側に再発防止策を要請することや利用者に危険性を周知することなどを求める報告書をまとめました。

トランポリンパーク等での事故(消費者庁WEBサイト)
-消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書-トランポリンパーク等での事故―
 概要 [PDF:793KB](令和5年4月20日)
 本文 [PDF:2.5MB](令和5年4月20日)

 

 

ふわふわドーム事故の群馬県事故検証委員会の報告書が2023-06-15公表されました

 ふわふわドームは空気を入れて膨らませた二つの山の上で、子どもが飛び跳ねて遊ぶ遊具で、縦約16メートル、横約11メートル、山が最も高い場所は約1.5メートルである。
 2022年8月と9月に4歳と7歳の男児が左上腕を骨折する事故が続けて発生したことを受けて群馬県は事故検証委員会を設置して、2023年6月15日に報告書を公表した。
 群馬県 報道提供資料

当 子どもの安全研究グループ遊具 ふわふわドームの事故で公表された報告書を検討している(進行中)。

さいたま市緑区の保育所プール事故「さいたま市報告書」が公表されました。2018-06-14

2017年8月24日午後3時半過ぎに、さいたま市緑区の私立認可保育所「めだか保育園」の女児(当時4)1人がプールで浮かんでいるのが発見され、意識不明の重体で病院に搬送されたが、翌25日早朝に死亡した事故についての事故検証報告書(以下、「報告書」という。)がさいたま市より2018年5月24日に公表されました。

さいたま市社会福祉審議会 特定教育・保育施設等重大事故検証専門分科会
報告書本文

事故が起きたプールは、保護者会と園との共同の手造りの約6mx4.7m、水深0.66mのもので、事故時には3歳児、4歳児、5歳児合わせて20人が入っていた。監視に保育士2人が当たっていたが、報告書によると園児を水中に残したままプールの滑り台(高さ2.0m、斜路4.05m、幅0.4m)を保育士2人が取り外し作業を行い、保育士が園児から目を離した15時36分から約1分から2分の間の出来事であったという。
 報告書では、さいたま市社会福祉審議会特定教育・保育施設等重大事故検証専門分科会(以下、「委員会」という。)の弁護士、保育所運営側委員、幼稚園運営側委員、看護学教員、医師の5人の委員により詳細な調査結果および8件の課題・提言が行われている。保育園あるいは幼稚園の運営面から良く記述されており皆様にもお読みいただきたい。
【後記】私ども「子どもの安全研究グループ」は技術士の集まりである事もあって報告書から読み切れない、述べられていない事項、あるいは疑問点があるので、それらを(ここ)に提示させて頂いている。子どもの安全に取り組んでいる方々と共有出来れば幸いである。