安全上の考慮事項:子どもの発達、行動及び不慮の危害(第5章)

子どもの定義

  (作業中)
 

子どもは小さな大人ではない Children are not little adults

 この言葉は「ガイド50」の序文 0.3項第3パラグラフ及び5.1.1冒頭に出てくる。子どもは大人とどのように違うのか、なぜ怪我をしやすいのか、怪我のリスクを排除又は低減するにはどうすればよいのか、この「ガイド50」はそれを明確な形で教えてくれる。

 安全対策については一般に多数の基準類(法的規制、基準、規格等)があり、設計者は通常それらを参照しながら傷害のリスクを低減する方策を立てる。しかしながらそれらの基準類では子どものことはほとんど考慮されていない。重大な子どもの傷害事故が起こると「想定外だった」「親がもっと注意をしていれば」という意見が先ず出てくる。しかしながら「想定外」の行動をとることは子どもにとって当り前のことであり、それを24時間つききりで見守ることで重大な怪我を防ぐことには限界がある。

 子どもの特徴は、第一に身体的なサイズにある。子どもは相対的に頭が大きいことはよく知られているが、その他にも皮膚の表面積が相対的に大きいなども考えなくてはならない。第二に子どもは生まれた瞬間から猛烈な勢いで発達する。寝返る、座る、這う、立ち上がるといった運動機能は誰も知らないうちに獲得して行動形態が急速に変化する。第三に子どもは感覚、生体力学、反応、代謝、など生理学的にも発達するが、それらは運動機能と並行するわけではなく、新たな運動能力の獲得によってとる行動がどのような危険にさらされるかという認識を子どもが持つことは難しい。第四に、これが子どもの最も著しい特徴でありまた大きなリスク要因になり得る、「探索行動」である。子どもは危険を何も知らないで生まれて来るが、ごく初期の段階からあらゆるものに興味を示し、探索行動をとる。危険の認識のないままに手に取る、口に入れる、登る、投げる、さらには限界を試すという行動までとる。これは子どもが危険を認識するための重要な知識獲得手段であり、自然の行動である。大人の世界では当たり前の「気をつけよ」という言葉による注意はほとんど意味をなさない。

 以上のような子どもの特徴を理解すれば、子ども発達段階に応じてとる行動は想定出来るものであり、「もの」を企画・設計する段階からその行動による傷害のリスクを想定し、対策をとることは可能である。

***************************************
・「子どもは小さな大人ではない」という言葉は、特に医療の関係ではよく知られている。子どもの発達が身体の器官ごとに全く異なる性質を持つことが文献に示されている。
   http://members3.jcom.home.ne.jp/wadaiin/drusui.html
・WHOでは子どもの傷害事故防止の重要性について詳細な報告書を発行しており、そこでも子どもの特徴についてこのキーワードを使いながら解説している。
   http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241563574_eng.pdf
    p.8 What makes children particularly susceptible to injury.
・子どもの身体、機能、行動などについて総合的に解説したデータ集が発行されている。
  持丸、山中、西田、河内編「子ども計測ハンドブック」朝倉書店 2013年発行

年齢階級別の表現

  (作業中)
 

子どもの発達と行動 (5.1 Child development and behavior)

 子どもは、昨日までできなかったことが今日突然できるようになることがある。また、当然知っているだろうと思うことを意外に知らないということもある。それゆえ、保護者をはじめとする子どもの育ちに関わる人々(ケアラー)は、「まだこんなことはできないだろう」とか、「もうこれくらいのことはわかっているだろう」と過大評価したり過小評価したりしてしまう。それは子どもを取り巻く多くの製品が、健康な一般成人向けにデザインされ、製造されていることに由来する。

たとえば、

・子どもは冒険心が旺盛なので、はしごに登るかもしれない。

・認知能力が十分でないため、そのはしごは自分には高すぎるかもしれない、とか、ぐらぐらして倒れるかもしれない、という判断ができないかもしれない。

・運動機能が十分でないため、桟から手を放してしまったり、はしごから落ちたりするかもしれない。

 子どもが一般成人用の使用を想定した製品を使ってみたり触ってみたりすることは、幼児期に見られる一般的な行動である。それが大人から見て間違った使い方であったとしてもそれを「誤使用」とすることには慎重でなければならない。(「誤使用」については「ガイド50」の0.3及び5.1.1参照)

 上記の内容は「ガイド50」の5「安全上の考慮事項:子どもの発達、行動及び不慮の危害」という章の最初の節 5.1「子どもの発達と行動」に詳しい。それに続く節では、子どもの身体の大きさ、運動能力の発達、生理学的発達、認識力の発達、そして探索行動という順で、子どもの発達とともにどのような危害のリスクに遭遇するか、そしてそれにどのように対処していくべきかという指針が詳しく述べられている。

 

子どもの年齢と発育レベル

  (作業中)

子どもの人体計測データ

  (作業中)

運動能力の発達

  (作業中)

生理学的発達

  (作業中)

認識力の発達

  (作業中)

冒険したいという生来の願望 (a natural desire to explore)

 このいかにも子ども(幼児)らしい様子をうかがえる言葉は、「ガイド50」の旧版ISO/IEC Guide 50:2002の翻訳版に現れるが、JIS Z 8050:2016では下記のようになっている。

0.3 子供の安全との関連性
 多くの国々で,幼児期から思春期にかけて子どもの傷害が死亡及び障がいの主要原因となっており、子どもの安全は、社会が重視すべき問題である。(中略)子どもは,リスクを経験したり認識したりすることなく、生来の探究心を抱いて大人の世界に生まれてくる。(中略)その結果、傷害を負う潜在的可能性は、特に幼児期から思春期にかけて大きくなる。子どもを見守ることで常に大きな傷害を防止又は最小限にできるわけではない。従ってしばしば追加的な傷害防止の戦略が必要になる。

(改訂前のISO/IEC Guide 50:2012の翻訳版では、上記太字の部分は「冒険したいという生来の願望」となっている。英文では改訂前後のどちらも同じ表現“with a natural desire to explore” であるが、旧規格の翻訳の方がニュアンスとしては合っていると考える。

「ガイド50」JIS Z 8050:2016でexploreは上記の他、次に示すように多数使用されている。
5.1.1 子供は探索行動の結果として,はしごに登るかもしれない。
5.1.1 リスク及び刺激的な環境を探索し学習する。
5.1.6 生まれつきの探究心によって突き動かされる。”driven by an inborn drive to explore”
5.1.6 探索行動の中で最も頻繁に観察されることの一つ・・・口に含むという探索行為は、単に食べるということではない。
7.9.2 ・・・子どもは、特に台所、食堂、浴室近辺などで熱傷のリスクにさらされる。それは彼らの探索傾向が強いためである。

これらの5箇所の例からみると、冒険したいという生来の願望という翻訳は「生来の探索心」」と言う表現よりも意味が深い。「冒険」と「探検」の違いは下記とした。

【冒険】とは、「危険が待ち受けていると想像できることを、あえて行う。そのような場所にあえて出かけること」。
【探検】とは、未知の場所に足を踏み入れ、その場所にある(と思われる)何かを探したり、調べたりすること。

私見では、「冒険したいという生来の願望」と訳した翻訳者の言葉のセンスに素晴らしいものを感じるが、規格としての厳密性、特に冒険にはリスクを意識していることが含まれるので問題かもしれない。しかしリスクを知らずに生まれてきた子どもがexploreに強い関心を示しているということが重要と考える。