ベビーベッドの転落事故

「ベビーベッドの転落事故」イメージ

はじめに
ベビーベッドは多くの家庭で乳児から幼児時代に使用されています。このベビーベッドから幼児が転落する事故がいまもあとを絶ちません。この問題を工学的な配慮で防止する方策について調査研究しました。
私どもの調査研究は発生した事故にかかわった特定の個人や団体あるいは組織を非難することを目的としておりません。
1.事故の概要

  

出典:日本小児科学会誌Injury Alert(障害注意速報)112:1732 No.8  

(1) 発生日時:2008年6月9日午前9時15分頃
(2) 発生場所:自宅の和室(畳床)
(3) 発生時の状況:
ベビーベッドの中に入れていた生後11ヶ月の男児がベビーベッドの前枠上枠を乗り越えて畳の床面に転落し、前額部を打撲する事故が発生しました。ベビーベッドは前枠が開閉式で事故発生時には前枠は閉められていました。
2.どうしたらこの事故の再発防止ができるか
(1) 事故が発生したベビーベッドの調査
ベビーベッドは開閉式上さん上端の高さが床板面から46.5 cmであり、専用形ベッドでなくサークル兼用形ベッドでした。
専用形ベッドの場合は上さん上端の高さは床板面の上60 cm以上と規定されている一方、兼用形ベッドの場合には上さん上端の高さは床板面上35 cm以上と規定されています。(JIS S1103:20144)、SG基準CPSA 0023:20145)。)そして幼児がつかまり立ちできるようになった場合は床面をとり外して使用するよう使用方法を使用上の情報として提供するよう規定されています。
販売されている一般的なベビーベッドは床板の位置を上段、中段、上段の3段階に調整するタイプであり、事故が発生したサークル兼用形ベッドも同様でした。SG基準は幼児用ベッドの構造物には床面から30 cm以内の高さに幼児が足を掛けられるような横さん等があってはならないとしていますがこの要求はJISにはありません。本件のベビーベッドには床板面から11.5 cmの高さに横さんがありました。幼児は30cm程度であれば簡単に足をかけますし6)、厚めのマットレスを床板に置くとさらに危険性は増します。
事故の状況から、つかまり立ちできるようになっていた幼児はこの横さんに足を掛けてベビーベッドの外を覗いているうちに上さん上部を乗り越えて転落したと推定されます。
サークル兼用型

 

  

(1歳0ヶ月)の重心高さを求めてみます。
身長78cm(90percentile)
胴体 A-14:60cm、
身長 A-2:78cm
頭部 C-2:13.5cm
肩峰高A-3:57cm

重心位置は(  )mm高さと推定されるので、幼児の重心は柵の上縁より(   )mm高いところにあり、幼児が柵の上から顔を出して下方を覗き込めば頭の一番高いところは柵の上縁より(  )mm高いところに飛び出しているため、容易に柵を乗り越えて床面(この場合は畳面)に落下し、頭部を打撲する恐れが十分あると考えられます。

足かけ転落

(2) 事故の解析
本件には危険源が3つあります。
1. サークル兼用形であるので前枠が2段に分割され、前枠を開いているときに46.5 cmと低いこと。(専用ベッドの場合本来60 cm以上あるべきと規定されている。JIS S1103、SG規格 ほか。)
2. 開閉式前さんの中折れ部が横さんとなり、前枠を閉じていても床板面から11.5 cmに幼児の足掛けになりうる横さんとして存在したこと。
3. 幼児がつかまり立ちできるようになったら前枠の高さを床板から60 cm程度になるよう床面を下げる、または取り外して使用マニュアルどおりに調整することが遅れる、あるいは調整しないこと。
乳幼児の発達は著しく、朝から晩までつかまり立ちの練習をしているのと同然であり突然つかまり立ちできる様になったら、ベビーベッドを乗り越えて転落の危険源となります。

3.安全への取り組み

実際に家具店等での流通状況を調べたところ、ベビーベッド売り場に陳列されているベッドのおよそ半数は兼用ベッドとして売られ、価格も専用ベッドに比べてかなり低く設定されていました。専用ベッドは側面開放柵の高さが60 cm以上と高いので、幼少の間は幼児の取り扱い勝手がやや悪いという欠点があるので、幼児の発達段階に応じて床板面の高さを調節できるようになっているケースが多いのです。幼児の発達段階に応じて床板面の高さを適切に調節しないと兼用形と同様な危険源となりえます。

4.まとめ

横さんが途中にある構造のベビーベッドは使用を避けるべきです。既に生産されたものについては危険であるので、事故防止の観点から流通段階で廃棄することが望ましいと考えます。
ベビーベッドの使用期間は生後12ヶ月と想定されていますが、身体能力の発達の早い幼児ではそれ以前でもつかまり立ちをして柵の乗り越えをしてしまう児が出ないとも限りませんので、足がかりとなる横さんがあるサークル兼用ベッドの使用は極力避けるべきです。
JIS規格、SG基準は2014年に改定されましたが、転落の事故を招くサークル兼用形ベッドの横さんの高さが35 cm以上と旧規格から改訂されていません。この規格の適否も至急検討して頂きたいものです。
今後は更に海外の規格類の状況を調査し、国内ベッドメーカー団体や学協会と協同で本質的に安全な乳幼児用ベッドの規格を案出して行きたいと計画しています。

1) 日本小児科学会誌Injury Alert(障害注意速報)112:1732 No.8   http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0007.pdf
2)JIS S1103:2014、木製ベビーベッド、日本規格協会
3)乳幼児ベッドのSG基準、CPSA 0023:2014、一般財団法人 製品安全協会
4)持丸正明、他、子ども計測ハンドブック、p27、朝倉書店、2013